用語集

文化

文化(ぶんか / culture)とは、人が社会のメンバーとして学習した習慣や能力を用いて、その社会のメンバーとして社会をさらに豊かにし、自分の人生をも豊かに送るための知識や考え方や行動の総体をいいます。

この場合、社会とは、なにも一つの国、地方、地域のそれだけを指すのではありません。家族、親族などの血縁組織、世代などの年齢別グループも、ここで「社会」になりえます。

英語 cultureをカタカナ書きにしてカルチャーと書くと、いささか意味合いが違ってくるようです。もっと同時代的な、ポップな軽さを帯びてきます。

いっぽう文化というと、とかく伝統としての価値が着目され、それがかつて持っていた合理性利便性が見落とされる傾向がありますが、長い歴史の中でそれが文化となる前は、今日の私たちが文化という言葉で連想する重々しさは、そもそも意図されていなかったことが多いものです。

たとえば世界的に名高い文化行事として、京都の祇園祭というのがあります。

19世紀にコッホやパスツールによって近代細菌学が始められるまで、人間は細菌性の疫病がどのようなメカニズムで起こるかわかりませんでした。
したがって祇園祭が始まった千年以上前の日本では、天然痘やインフルエンザ、赤痢といった疫病が京の都で流行しないように、いわば今日でいう保健衛生のための制度として、祇園祭が始められました。
それは、日本の国の数を表す66本の矛を立て、その矛に諸国の悪霊を移し宿らせることで諸国の穢(けが)れを祓(はら)うという方針でおこなわれた政策制度だったのです。

現在とは異なる知識や世界観に立つものなので、現代の私たちからすれば、ともすれば不合理で因習じみた行事に見えてしまうかもしれませんが、これは当時の最先端の知識人が研究し、当時の政府である朝廷により決定された政策でした。
だから、当時の人々は、その行事の持つ合理性・利便性を信じており、まさか「伝統のために」やろうとは思っていなかったはずです。

平安時代初めの人々は「わからないもの」に対して、持っていた知識のありったけをかたむけて、この是非について議論したかもしれません。
脱原発などの政策決定に関して、同じく「わからないもの」を対象に右往左往している現代の私たちはけっしてこれを笑えないことでしょう。

こうして、当時の合理的な解決は、やがて社会の変化とともに合理性を失い、行動の痕跡だけが残っていき、そこにやがて伝統という別の価値が認められていくのです。
このことは、人間の習慣嗜癖、さらには強迫反復といった現象と密接な関係があります。