用語集

患者

患者(かんじゃ / patient )とは、「患(わず)らう者」と書きますが、ただ病気を患っているだけでは患者となりません。患っていることを本人が認めるか、あるいは本人にすでに認める力がない時は周囲から認められるかすることによって、医療の枠の中に入ったときに患者となるのです。
言いかえれば、治療者との関係が生じて、はじめて人は患者となります。

 
英語の patient は、「患者」という名詞であると同時に「忍耐づよい」という形容詞でもありますが、これは古代ギリシャ語で「苦しむ」をあらわす πάσχειν (= pathein )に語源をさかのぼることができます。その名詞がペイソス πάθος (= pathos)で、これは「悲哀」「哀感」などと訳されます。
つまり、治療を受けるためにじっと耐えている様子が、そもそもpatientの語源であったわけです。

以前の医学においては、英語よりもドイツ語が主に使われたので、その世代の医師たちは患者のことをクランケ(独:Kranke)と呼びます。

 
ところが精神医療においては、「患っていることを認めるか認められるかする」というステップが容易に通過できないことがあります。

たとえば、家族療法などで医療機関やカウンセリングにつながっている人が、その家族のなかでIPではない場合、
「自分は病気ではないんだけど、家族に問題があるから、仕方なく来てやった」
と考えていることも多くあります。

このような場合、このような人を患者と呼ぶことは、本人もいやがるでしょうし、治療者からしても本人の主体を尊重していない形となります。

また、家族が関係していなくても、精神的に病んでいるかどうかは本人の主観と見解を異にする場合もあるので、こういうときも本人の認識に逆らって患者とすることはためらわれます。

このような場合も踏まえて、精神医療では広く、治療者の側から患者という呼び方を避け、クライエント(client)もしくは来談者という語を使うようになってきました。