用語集

クロルプロマジン

クロルプロマジン(Chlorpromazine)は、薬品の名前です。1952年にフランスの海軍外科医、生化学者アンリ・ラボリ(Henri Laborit,1914-1995)によって発見された、最初の抗精神病薬です。1883年にはじめて化合物が合成されたフェノチアジン系の抗精神病薬で、精神安定剤としてはメジャートランキライザーに分類され、現在の日本でも臨床で使われています。統合失調症・躁病・神経症における不安・緊張・抑うつなどに効くとされますが、パーキンソン病をはじめ、さまざまな副作用もあるため、日本では劇薬に指定されています。
クロルプロマジンの発見が、結果的に抗鬱剤ほか、その他の向精神薬の開発をうながしたと言えます。それらほとんどの薬は、コールタールから抽出されるため、コールタール・ケミストリーとも言われます。
クロルプロマジンの開発者ラボリは、もともとエーテルやクロロホルムなどの麻酔剤の使用に関するショックの軽減のためにプロメタジンを用いていましたが、プロメタジンが持つ鎮痛効果や体温低下反応などを見て、これが中枢神経系へはたらきかける効果を持つのではないかと考え、製薬会社ローヌブーラン社の開発責任者ピエール・コーチェ(Pierre Koetschet)に開発を相談したのでした。コーチェは、精神障害やてんかんなどに有効な可能性があると期待し、当時としては画期的な動物行動実験を導入しました。
この実験によると、それまでロープを登って食べ物を食べるように訓練されていた実験用ラットが、クロルプロマジンを投与すると食べ物のところへ行くことに興味を示さなくなるという、いちじるしい鎮静作用が発見されました。そこで人間に投与してみると、妄想や幻覚に悩まされていた患者たちが、クロルプロマジンによって症状から解放されるのが見て取れました。
精神病が工場で作られた薬で治る、というのは画期的なできごとのように思われました。そこでこのクロルプロマジンは、商品名ソラジン(Thorazine)またはラーガクティル(Largactil)として、またたくまに主にアメリカの薬品市場にひろがっていったのでした。
すると当時の製薬業界、…ガイギー、チバ、ロッシュ、サンド、ローヌプーランなどの各社は、すぐにこの化合物の新たな可能性を模索するようになりました。臨床の研究者たちには製薬会社より多額の利益供与がおこなわれ、意見の交流が実現し、研究開発が促進されていきました。こうしてヨーロッパでは「神経遮断薬」、アメリカで「抗精神病薬」と呼ばれる薬物が、医学の進歩を象徴したのでした。
しかし、抗不安薬ならばともかくも、鬱病に対する薬は作ることができない、というのが専門家の片方に頑強なまでの意見として存在しました。なぜかというと、鬱病は対象の喪失から生じるものであり、なくなった対象を薬によってあるものに変えることなど、到底できるわけがない、と考えられるからです。こうして、鬱病をなおす薬をつくろうという派と、鬱病をなおすのは薬でないという派にわかれていくことになりました。そして、抗鬱剤の開発に意欲を燃やす人々は、このクロルプロマジンの分子構造を少しだけ変化させて、やがてイミプラミンを作ることになるのです。