用語集

タナトス

タナトス(thanatos)とは、もともと精神分析の用語で、エロスと対になって人間の欲動を説明するのにつかわれる言葉で、死の欲動と訳されます。デストルドー(destrudo)ともいいます。
少し前まで死の本能と訳されてきました。(詳しくは「欲動」の項をごらんください。)

古代ギリシャでは、タナトス(Θάνατος)とは、死の概念を神格化したもので、 ニュクス(夜)の息子でヒュプノス(眠り)の兄弟である、ひじょうに希薄な容姿や性格を持っていた神でした。

フロイトは、1920年『快楽原則の彼岸』の中で、はじめてこのタナトスという語を使い始めました。
フロイトははじめのころ、人間が生きること、すなわち「生」とは、人間にとって快楽であると考えていましたが、1914年 - 1918年に第一次世界大戦が起こり、ヨーロッパが壊滅に近い状態になったのを目の当たりにして、なぜ人間は自分たち人間を破壊するような行為をするのかと疑問に思い始めました。

これをきっかけとして彼の考え方は、「快楽が生」から「死の欲動との闘いが生」という大筋へと大きく変わっていきました。

これをもとに、やがて彼は1931年『文明への不満』を書くに至りますが、後世も多くの精神分析家や思想家が、この「死の欲動」の考えの助けを借りて、人類が自分たちを複数回も滅ぼせるほどの大量破壊兵器を開発した理由など、人間が持つ暗黒な側面を解明することに切りこみました。

臨床的には、タナトスは、強迫反復、陰性の治療反応道徳的マゾヒズムなどに出るとされていますが、フロイト自身は臨床でタナトスの実在を確認する術は少ないと言っています。
メラニー・クラインジャック・ラカンがそれを受け継ぎ、後継した人として知られています。